『臥し待ちの月』

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 時季の真上には、何もない空間が開き、かなり大きな機体が見えてきた。空に黒い穴が開いたような感じであった。  亜空間経由で、武器を落とそうとしているのか。俺は亜空間を閉じながら、手から銃を出すと、見えていた機械を撃ち抜く。やや逸らしてその上の人も撃ち抜いてみた。傍から見れば、弾を外しているように見えるが、亜空間に居る人を撃ったのだ。外したわけではない。 「銃器は持ち込み禁止ですけどね」 「持ち込んでいませんよ。今の銃は亜空間から出していません」  屁理屈でもない、本当に出していないのだ。 「大和、その小細工だけはうまいですよね。体力が無い分、境界を曖昧にして使う方法に長けましたか」  桜川が、妙に分析してくる。ならば、こんなのはどうであろうか。俺の後ろに、亜空間を繋いでみた。 「それは、何ですか?」 「霧ですよ、雨とも呼びますかね」  亜空間を霧や雨にして、周囲に散らせるのだ。この雨を越えられる人間は、そうそう居ない。霧や雨に触れた箇所が、どこかの空間に飛んでは戻ってくる。それは、凄まじい激痛になる。肉体の一部が飛び散るのだ。  但し、攻撃の時に敵味方の区別ができないので、普段は使用できない。 「ああ、そういう使い方もありますよね。でも、基本的に貴方は亜空間使いとしては、未熟ですね」  自分の未熟さは分かっている。だから、俺は桜川に頭を下げてみた。 「桜川様、俺に亜空間使いを教えてください!」  亜空間使いに拘るのならば、確かに未熟で桜川に教えを請いに来た。でも、一つだけ訂正しておく。  俺は、空中に亜空間の窓を出すと、扉を開けてみせた。これだけは、多分、誰にも負けないものがある。俺は、持っている亜空間の量と広さが無限に近く、その種類も誰よりも多い。これは、俺が幼少よりコレクションしてしまった結果であった。暇さえあれば、亜空間に入り、遊んでいたのだ。  この量というのは、増やそうとして増えるものではなく、無限というのは、奇跡の量であった。亜空間は、魂に見合うだけの量しか持てない、そう言われてきた代物であるのだ。 「孝太郎君の亜空間を見てきましたが、彼のは広大で強かった。この空間を渡せる、一羅は凄いと思いましたが、孝太郎君の亜空間は、彼の所有する九十パーセントの亜空間であったのですよ」  そういう意味では、俺は一羅に広さでは勝っている。
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