『臥し待ちの月』

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「何がいいかな。確か、ジョンが試作品をくれたっけな」  亜空間から爆弾を取ると、空中に投げてみた。  投げられた爆弾は、亜空間を抜け、刺客の元に辿り着く。  爆破してみたが、手ごたえがない。 「何を遊んでいるのですか?」 「あ、御卜、ストップ!御卜は見えていないだけで、大和のこういう腕は一流だから」  袈裟丸が慌てていた。こういう腕とは、どのような腕なのだろうか。 「ああ、元を爆破してみた」  俄かに空が黒くなった。 「大和……やってくれるよな」  時季が嘆きながら、庭から建物に逃げ込んできた。次の瞬間、石や岩と一緒に、血の雨が庭に降っていた。 「桜川様、庭を汚してしまいましたので、本当の雨を降らしてもいいでしょうか?」  この庭を、どう洗ったらいいものか。 「いいけど、この星、数年に一度しか雨は降らない」  他の星の雲を、亜空間を通し通過させる。すると、庭に雨が降っていた。 「雨で流しても生臭いよね。まあ、しょうがない、清掃を頼んでおくよ」  桜川は溜息を付いていた。  桜川は、高麗に亜空間を教えたのだが、高麗はあまり向いていなかったという。自分の体の制御が難しい高麗は、それ以上の事を同時にすると、次の瞬間眠りに落ち、起きなくなってしまうのだそうだ。  桜川に亜空間の教えを請うという理由で、俺と時季、響紀が建物内の護衛についた。 「三人で師匠につくのは、久し振りだよね」  十二歳で特S級になったが、その上のSS級は遠かった。それは実績での評価であったのだ。  庭で座って待っていると、桜川が少年の姿で、車イスでやってきた。省エネモードの桜川であった。  芝生に来ると、車イスを投げ捨て、地面に飛び込んできた。どうも、両足が動かないらしい。 「この姿は省エネで、エコ」  芝生で、手で移動してくる。どうして、車イスから降りたのか、意味は分からない。 「俺は内戦の地で生まれて、周囲は死体だらけ。遊び道具は死体だった。死体をバラし、組立、機械に繋げて遊んでいた。……今も変わらないけどね」  桜川は、芝生の丘を登ると、転がりながら落ちてきた。一体何がしたいのか、俺は桜川を凝視していた。やりたい事が分からなければ、どう手を貸していいものか分からない。 「そこで、俺は幼い時から、機械と人間を融合させることが出来た。死体を電気で繋いで遊んでいたからね」
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