『臥し待ちの月』

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 桜川は動かない足に、車イスから伸ばした線を繋ぐ。すると、足が動き出していた。どうも、先ほどの転がりは、足が動かないことを証明していたようだ。 「亜空間も同じ」  すごい理論で、瞬間では分からない。 「大和、今、刺客は来ない。亜空間で何をしている?」 「亜空間は雨、所により霧。通れなくしている」  桜川が頷く。 「ゲートキーパーは、亜空間を体の一部として扱う。亜空間使いは、道具として使う」  少し意味が分かった。  俺は亜空間と繋がっているが、道具というのは使うのみで、繋がるということではない。  道具と人、これは天と地と同じで、決して交わることのないことであった。  桜川が、俺を見る。桜川はあちこち、草まみれになっていた。 「ここの収入は、臓器でね。だから、銃器の使用を禁止して、鬼城を頼んだ。爆破も禁止でいい死体を求む」  亜空間の雨と霧を止めた。 「君達は、体の一部のように亜空間を使用する。そうではなく、物として亜空間を使う方法を教える」  刺客が来ると、糸で切り刻む。すると、あまり傷を付けなとクレームがきた。 「血抜きをしますか?」 「食べるわけではないからね。即死で、かつ、体を痛めるな」  難しい注文をしてくる。しかし、この星に居るメンバーの中で、俺達三人は暗殺部隊の出身で、生きて捕まえろと言われるよりも、殺す方に慣れていた。  響紀もナイフを振り回しながらも、目を閉じて桜川の言葉を考えていた。 「今、手を使って、ナイフを投げた。手は体の一部で、ナイフは物だね」  分かるような、分からないような気分であった。 「あ、看護師さん。あのピンクの制服がいいですよね。真ん中の襟と、ミニスカート」  胸があっても、清楚な胸でも、どちらでも萌える。きっちり制服で隠れているのがいいのだろう。 「大和は、意外におじさん趣味だよね……」  タイトのスカートから見える足は、つい目で追ってしまう。 「奥さんも看護師だったものね」  時季の言葉に、一気に冷めた。そして俺は、離縁されたのだ。 「あ、落ち込んだ」  でも、物という感覚が少し分かった。亜空間に鍵を掛ける。体の一部ならば、鍵などはないが、物ならば鍵を掛けられる。  鍵という何かを作れば、そこは完了した世界であるのだ。鍵を壊されれば、開き、そのままならば閉じている。  イメージの違いだけであるようだが、技の掛け方に大きな違いがあった。
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