『臥し待ちの月』

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 五月人形は、金太郎みたいなやつだろうか。よく言われるが、自分では似ていると思った事がない。熊に跨って、こいのぼりを持っているイメージなのだろうか、俺。 「すまん、おやじさん……」  溜息をついた袈裟丸が、うどんの残りを食べていた。 「こんなに綺麗な子が、頭領なのかい。近くで見ても、綺麗でかわいいねえ。おまけ付けてあげようかね」  俺のうどんに、卵とのりが追加されていた。 「ありがとう」 「おやじさん、俺にはおまけはないの」  袈裟丸が、どんぶりを片手に持ち、おまけを催促していた。店主は仕方なく、袈裟丸のうどんにも、たまごを乗せた。 「やった!」  猛獣のようだが、笑うと袈裟丸は可愛い。このギャップに、御卜も惚れたのかもしれない。袈裟丸は、強いのに素直であった。  俺も、本当に袈裟丸が嫌いではない。 「袈裟丸、御卜とはうまくいっているの?」  袈裟丸は、今度は別の意味で赤くなっていた。 「すいません……大和の恋人だったのに。でも、俺は幸せです」  幸せならばいい。それに、袈裟丸が謝ることは何もない。俺が、振られただけだ。 「なら、いいよ……」 「でも、大和は、老若男女に好かれるその容姿と、鬼城で一番の銃器使い、操縦の腕もジュノー仕込みでS級、俺比べると自信がなくなりますよね」  振られた俺のほうが、もっと自信がなくなるだろう。でも、袈裟丸はいい奴だ。御卜が選んだのが、袈裟丸で良かった。 「俺は、袈裟丸が好きだよ。御卜が選んだ気持ちは分かる」  袈裟丸が、ゆでたように真っ赤になった。 「……好きというのは、友人でしかも男友達って意味でね」 「はい……」  うどんを食べて外に出ると、何かの騒ぎが大通りで起こっているようだった。人が走って路地を抜け、大通りへと走ってゆく。 「帰ろう、袈裟丸」  袈裟丸は、祭りと喧嘩が好きというタイプであったので、そわそわとしていた。 「あれ、ジュノー家だよね!」  路地を走る子供が、叫んでゆく。  ジュノー家?嫌な予感がしていた。 「先に帰る……」  俺は、今はジュノー家の暗殺部隊に狙われてはいない筈。でも、近寄らない方がいいだろう。  走って逃げようとすると、正面に、出雲 響紀(いずも ひびき)の姿を見つけた。この響紀は、俺の幼馴染で、今も同じチームであった。  響きは、やさしい女性的ともいえる顔で、かなりの美人であった。でも、キレると誰も止められない。 「響紀!」
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