『臥し待ちの月』

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 俺は、走り寄ってから、出雲がナイフを出している事に気が付いた。 「響紀?」  俺は、静かにそっと後ろに下がる。出雲のナイフは、俺でも避けられない時がある。 「家にね、ジュノーが来ましてね。大和を預かりたいと言ってきました。もちろん、丁重にお断りさせてもらいましたよ」  響紀、キレている。このキレっぷりならば、来たのは、俺の母のジュリアン・ジュノーではないだろう。響紀は、ジュリアンを尊敬していた。 「ならば、攫ってゆきたいと言うものでね、俺は大和を探す。時季(とき)はジュノーをお見送りしています」  もしかして、大通りの騒ぎは時季なのか。大神 時季(おおみわ とき)、響紀と同じく幼馴染で、同じチームであった。 「大通りなのか……」  この幼馴染の二人は、本当に小さい頃から一緒に育った。同じ鉄鎖で、黒組、暗殺部隊にいた。この星の出身者ではない俺達は、使い捨ての存在であった。こうして生きてこられたのは、仲間がいて、助けあってきたせいだ。俺の家族は、今は、時季と響紀であった。 「全く……」  時季も、大人げない。俺が、大通りに行こうとすると、響紀の殺気が増していた。 「俺達は、絶対に大和を渡しません。大和は、俺達の宝物です」  一体、何を考えて、ジュノー家は来たのだ。俺が、表通りに行くと、時季が道の中央に立っていた。  時季の姿は、煙のように風にたなびいていた。これは、時季の一番技であった。  鬼城家では、鬼城でその技の一番の使い手の事を、誰それの一番技という。技に対して一人しか存在しない。他に、本人の得意技を二番技と呼び、その人が頻繁に使う技を三番技と呼んでいた。  時季も一番技を出すということは、相当に本気であった。時季の煙の姿は、銃もナイフも素通りする。 「時季。ジュノーの誰が来た?」  どうして、そこまで怒っているのだ。 「兄さん!!!!!」  緊迫した雰囲気をまったく気にせずに。ガタイのいい男が走ってきた。 「ジョン?」  父違いの弟のジョン・ジュノーであった。今は、母の跡を継いで、ジュノー家の武器商人の頭領である。宇宙屈指の武器商人を敵にまわすのは、まずいのではないのか。時季の顔を見たが、そんな迷いは微塵も無かった。ジョンは、厄介な敵としか認識されていない。 「兄さん、会いたかったよ。変わらずに可愛いよね。火の屋のクローンのような姿なのが悔しいよ。でも、その倍憧れるよね」
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