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「この日が、だんだんと近づいてくると、ドキドキしていたよ。やっと薬師神に会えると思ってさ」
千々石は、世界の粛清を避けるため、俺が襲われても、藤木が襲われても手出しはできなかったという。でも、今日からは、知らない未来に入るので、助ける事も、会う事も可能になった。
「でも、どうしても会いたくて、客に混じってさ。森のくまには、パンを買いに行っていたよ」
千々石の目の闇も薄れていた。夜のような瞳であったが、暗さはない。
「和海は記憶を無くしていたけどさ、薬師神に会いたいみたいだよ」
和海は、神憑きの存在に涙しているという。神憑きは、孤独で寂しい。
「和海が……そうなの」
前の恨みの籠った目しか、和海を思い出せない。
「それでね……まあ、今度は俺の家にも来てよ。隣が中華料理店でさ、デリバリ可能」
「愛の巣に行くの……お邪魔ではないかな」
千々石は、俺と同じく両親が亡くなっている。保護者も同じく、叔父になっていた筈であった。
「……うるさい。これは、これ」
約束通りに、一晩中、話しをしよう。琥王も、大黒も、きっと福来もやってくる。
大黒の店番をしていた神々廻もやってくるというので、やっと、全員の神使いも揃うのだ。
「約束だよね、一晩中喋ろうか。でも、その前に、千々石、おかえり」
「ただいま」
俺は千々石と、向き合って笑った。
『神憑き』完
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