『人喰いの橋』

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第一章 白蓮の森  出張先で宿泊したホテルは、祭りがあったとかで街中の予約がとれず、郊外のホテルであった。周囲には何もなく、店もない。しかし、なかなか落ち着く雰囲気の、料理のうまいホテルであった。  夕食を済まし、窓から外を見ていると、森が眼下に広がっていた。深い森であったが、その中に、白い部分があるのが気になった。白く見えるものは、花であった。咲いているのは、一本しかない。たった一本の満開。森の中で光るように咲く白い花。森の中で見たら、どのように見えるのか。  喫茶店の屋根裏にある、えんきり屋人探し部門?そこで、メモを受け取ってから、俺、薬師神 一弘(やくしじん かずひろ)は悩んでいた。  この依頼は、人探しではなく、自殺した原因を教えて欲しいという依頼であった。  俺は、神憑きで、守護霊に神を持つ。それも、六体憑いていた。その神の一番弱い能力を使用して、人探しをしているので、原因を探す事は不可能に近い。  人探しを依頼される理由は、俺が、遠視という能力を持つせいであった。俺は、人物を特定すると、その人物の居場所が見える能力があるのだ。簡単な人探しの依頼ならば、遠視をするだけで居場所が分かる。  この人探しの仕事を持ってくるのは、塩冶 秀重(えんや ひでしげ)このえんきり屋の店長であった。この塩冶は、危険な事も、意味のないことも、俺にはさせないだろう。  では、このメモは何なのだ。  冷めたコーヒーを飲んでいると、勢いよくドアの開いた音がしていた。俺は、屋根裏で隠す場所を探すと、持っていたクッキーを本の後ろに置き、その本棚を背にして座った。  屋根裏に掛かっている、梯子が軋む。 「薬師神、先に帰るなって言っているだろう」  梯子を登って来たのは、檮山 琥王(ゆすやま こおう)高校で隣の教室に居る。琥王は、この人探し部門の相棒でもある。琥王にも、事情があって、俺と同じ神憑きであるのだ。  琥王に憑いているのは、厄病神であった。この厄病神、憑き主だけは必死で守る。しかし、周囲には厄がやってくる。その厄を抑えるために、琥王は賽銭や募金で厄を落としていた。金か命、神はそれを喰らう。 「琥王を待っていたら、遅くなるだろう」  琥王は、陸上競技会に続き、また学校のイベントの委員をしていた。琥王を待っていたら、帰りが遅くなる。
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