37人が本棚に入れています
本棚に追加
/54ページ
俺が琥王を見ると、琥王は未だ制服のままであった。自宅へ戻らずに、そのまま、えんきり屋に来たのだろう。
「今度は、体育祭で、その後が文化祭?」
どうして、学校はイベントを作るのだろうか。琥王は、どうして、ことごとくイベントに関わるのだろうか。
「薬師神、また、さぼるつもり?」
俺は、イベントの類が嫌いであったが、体育祭には、級友の天満(てんま)と住吉との約束があり参加する予定であった。
「……サボリたいけど、そうもいかくてね。でも、土日が働けないと、生活費もあるから、貯蓄がな……」
俺は、高校二年生であったが、既に両親は亡くなり、叔父の家の養子になっていた。叔父夫妻に迷惑も掛けたくないので、自分で生活費を稼いでいた。
学費や交通費、食費などもあって、なかなか生活も大変であった。
「ちょっと、泊まりで仕事してくるかな」
「泊まり?何故?何の仕事?」
琥王が俺の両腕を掴み、ぶんぶん振ってきた。お蔭で本が落ち、クッキーを発見されてしまった。
このクッキーは薬師神のクッキーで、食べると疲れが取れる。えんきり屋の、もう一人の店長、桐生が特別な客に出すクッキーであった。
「遠方の仕事は、放置していたせいだよ。人探しのね」
普通の日では、あまり遠くの現場には行けない。泊まりで、まとめて処理してこようと思ったのだ。
「俺も行く!」
琥王が一緒だと、飛ぶ能力が使用できない。
再び梯子が揺れていると、塩冶が資料を持ってやってきた。
塩冶は伊達眼鏡をかけているが、それでも分かる程の、綺麗な顔立ちをしていた。塩冶の趣味は筋トレであるので、見た目と異なり、格闘技なども強い。
「薬師神君。俺のベッドで眠るならば、部屋代はいらないよ」
俺は、塩冶の家に住んでいるが、ゲストルームを使用していた。ゲストルームでも、普通のアパートよりも広い。家賃は、人探しの代金から引かれている。
塩冶は、家にも襲撃されてから、一緒に寝ようを繰り返し言っていた。眠るだけで、何も無いが、それでも、一緒はまずいのではないのか。
「……部屋代はお支払します。どうしょうも無くなれば、実家に帰ります」
塩冶の持ってきた資料には、自殺の原因を俺が調べるよう依頼された、経緯が書かれていた。
最初のコメントを投稿しよう!