『人喰いの橋』

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 それは、塩冶様(塩冶の母親)に持ち込まれた、相談事であった。息子が出張先で自殺、原因は不明で、仕事上のトラブルを苦にしたと周囲は解釈していた。確かに、トラブルはあったが、それは、昔からで、特に昨日今日で増えたわけではなかった。そういう部門の仕事をしていたのだ。不良品による事故現場に駆けつけ、原因を調べ、対策し、謝るような仕事であった。  出張先のホテルでの宿泊時に、森に行って首を吊った。手にメモが残されていたが、遺書ではなかった。  白い花を見に行ったとあるが、そんな花は周囲には見つからなかった。 「それ、そこね。薬師神君は、森に行って、その花を見つけて欲しい。それが、遺族の依頼なのよ」  花を探せ、ならば、確かに俺が向いているのかもしれない。 「そうですか。では、俺、行ってきます。資料だけでは遠視もできないので」  森に咲く白い花では、特定ができない。  早速、神憑きの能力で、飛んで行こうとすると、塩冶と琥王が腕を同時に掴んだ。 「一人で行かないようにね。薬師神君は、絶えず殺されかかっているよね。でも、俺が怖いのは、殺すではなく、攫われて帰って来ない方ね」  塩冶も、古墳の調査で神の閉じ込め方を知ってしまっていた。他の組織も、神の閉じ込め方【神の檻】の、作り方を知っていてもおかしくはない。  俺は、ホテルの遠視をしてみた。遠いが、飛べば日帰りできる。飛ぶ能力は、スピードが出るわけではないが、直線で移動できるので早いのだ。 「電車で行けるのですか、ここ……」  飛ぶなと言っても、この森は結構遠い。しかも、駅から離れていた。 「それに、森ならば、大丈夫でしょう。これでも、樹神でもありますから」 「でもねえ、心配だよね」  そもそも、依頼を持ってきたのは、塩冶であった。 「神々廻は今忙しいそうだし。そうだ、七五三野(しめの)。俺の格闘技仲間がいるから送迎させる」  だから、人探しのバイトに送迎はいらないであろう。しかも、格闘技仲間とは何であろうか。 「七五三野はね。ボクシングもしていたのだけど、試合中の事故でね、相手を再起不能にしてしまって、精神を病んでね。塩冶様でリハビリ中」  七五三野が再起不能にした相手は、親友だったのだそうだ。 「ホテルの宿泊は予約しておくよ、自殺した息子と同じ部屋ね」
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