『人喰いの橋』

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「一弘君。俺も仕事で君とは一緒にいられないからね。これ、持っていなさい」  穏やかな安廣を見ると、どことなく安心する。 「君は樹神憑きというか、樹神そのものだからね。きっと役に立つよ」  安廣は、盆栽を持っていた。確かに、安廣も神憑きであり、盆栽好きでもあった。盆栽は、安廣の魂があると言っても過言ではない。でも、安廣の神は、文学のようなものを愛するものであったはず。この盆在には、効果があるのか。  むしろ、本をくれたほうが、効果があるのではないのか。 「これは……」  しかも、盆栽は手間がかかるのではないのか。 「大丈夫だよ。ちゃんと、交換してゆくから。手入れをしたものに交換していくから、面倒はみなくてもいいよ」  でも、水は必要であろう。 「朝は水をあげてね」  そんな、面倒なものはいらない。塩冶の庭園に混ぜておくしかないか。 「それとね、そんな不審そうな顔をしない。俺の愛蔵書。これを部屋に置いておくといい。これは、知らせてくれる。真理を追究することに協力してくれる」  安廣を、リビングに通すと、ラーメンを食べていた七五三野を凝視していた。七五三野は、どこか不審者でもあった。 「薬師神の育ての親、善家様ですね」  丁寧な言葉を喋れば、少しは七五三野にも品が出てくる。しかし、ラーメンから踊るように出ている、イカの足が気になる。 「七五三野です。塩冶様に仕えています。やさぐれて、自暴自棄になっているところを拾われまして、こうして役目を与えてくださります。しかも、給料も出ます」  豪快に笑う七五三野に、裏はない。 「そうですか。息子が世話になります。この子、不死身のようですが、自分で体温をコントロールできないのですよ。それで、よく芽実と交代で添い寝していましたよ」  添い寝。それは、赤ん坊の時の話ではないのか。昨日の事のように言わないで欲しい。俺は、安廣を睨んでいた。  安廣は善家であり、善家は遥か過去から、神憑きを擁護していた。善家には、闇から神憑きを守る組織が、今も残っているという。 「だから、いいかい。一弘君。俺のことは心配しなくてもいいし、もしも、本当に困ったら、善家に逃げ込みなさい。彼らは、基本、神憑きを殺さない」  安廣は、そのことを伝えに来たらしい。 「しかし、賑やかで安心した。闇憑きは、一弘君を狙っているのではないよ。闇は闇なのだからね。心に闇を持つと、付け込まれる」
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