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七五三野は、安廣が結婚していると聞くと、残念がっていた。節操のない七五三野であったが、既婚者もなしなのだそうだ。
「それと、七五三野さん。ラーメンに生きたイカは合わないかと思いますよ」
イカが変だとは思っていたが、生きたイカであったのか。
「それでは、帰るよ」
安廣がにこやかに帰って行った。
「いい魂だ。既婚者というのが惜しい」
七五三野は、ラーメンを食べていた。イカもそのまま齧ってゆく。
「琥王?」
いつの間にか、琥王が消えていた。心配になり家の中を探してみると、盆栽をベランダの庭にセットしていた。
「これで、分からない」
庭にマッチしていて、追加されたとは気がつかないだろう。
「琥王……」
ベランダで、二人きりになると、互いに顔を見合わせる。
「……塩冶さんは、薬師神の精神がまいると体温を調節できないと気がついていたのだな。だから添い寝していた」
琥王にも添い寝は聞こえてしまったか。でも、訂正すると、芽実に添い寝してもらった記憶はない。そもそも、誰かと一緒に眠った記憶もない。安廣は、俺が幼児のときの思い出を言ったのではないのか。
「薬師神。好きだよ。もう、世界中の何よりも、薬師神がこうして目の前にいてくれるだけで、全て」
琥王は、そっと唇を寄せてくる。この庭園の中までは、室内からは見えない。それに、ここにも樹神が存在するので、周囲の気配は分かる。だから、二人きりだとは知っている。
ぷにと触れた唇は、すぐに離されて、次にしっかりと背に手が回されると、体ごと寄せられていた。
かぶりつくみたいな、琥王のキスは、喰われている気がする。背に入れられている琥王の手が、体中を這い回り始める。
「……琥王」
天満を失い、心が哀しい。哀しさを補うように、人の温もりが優しい。これから生きてゆくために、温もりが欲しかった。
咥内に入ってきた琥王の舌は、俺の舌に触れる。瞬間引いた体が、琥王の手によって更に引き寄せられる。
「琥王……」
無言の琥王は、少し怖い。暫し琥王は、体を離して、俺を見ていた。
「俺の、一弘……」
今、俺の名前を呼ばなかったか?琥王に名前を呼ばれたのは、初めてのような気がする。芽実と安廣くらいしか、普段、俺は名前を呼ばれない。
首を舐められて、全身の力が入らない。立っていられないと思った瞬間、植木の中に倒れ込んでいた。
「琥王、待った……」
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