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胸を触っても、俺には何もないだろう。
それに、星が流れた。
「分かった……」
琥王も、起き上がると空を見上げた。
「巨大な厄が生まれた」
和海は、どれだけの犬を集めて、殺したというのだろうか。吠えるという能力のせいか、俺は、動物の神も憑いている。
夜空に光る星だけではなく、力の配分で光っている、星の配置がある。その世界に浮かぶ星のひとつを、和海は落とした。
これは、世界に粛清が入るということだ。
「まずいね、塩冶さんに電話をかけて。桐生さんを樹神の森に隠して貰おう」
俺は、塩冶に急いで電話をかけた。琥王は、空を見上げて、厄の所在を確認していた。
ベランダを移動すると、大黒も空を見上げていた。
「神の檻を造って、閉じ込めた神に、犬の災厄を振りかけたのだろう。嘆きと悲しみが、空から降り注いでいる」
テレビに、大型の台風が接近しているとの速報が入っていた。地球規模の災害で、想定外の海の荒れが発生していた。小さな島ならば、陸地が無い程の波にさらされる予想が出ていた。緊急避難が、あちこちで発令されてゆく。しかも、山に逃げれば良いというものでもない。
山崩れが続発し、道路の分断も相次いで発生していた。
「逃げる場所がない」
川の氾濫も予想され、高台の避難所に逃げろとあった。
他に他国で、火山が噴火し、地震が多発しているニュースも入る。
和海は、この世界を憎んでいたのだろうか。世界が滅べば、和海も死ぬだろう。和海は、この世界と、心中するつもりだったのか。
この世界には、俺の護りたい人がいる。塩冶様が、神憑きに優しかったのは、こういう結末を知っていたからなのか。
俺は、千々石に電話をかけていた。
「薬師神……行くのか?」
「そうする」
ベランダに出てみると、嵐が来ていた。雨が激しさを増した、風が強くなり始めた。先ほど見えていた夜空が、嘘のように雲に飲まれている。
濡れながら空を見ていると、覚悟がきまった。
神を七人揃えると、世界が滅ぶ。そして救世主が現れる。
琥王が部屋に入ったのを見送り、俺は、空へと飛び上がる。
「薬師神!」
一弘から、薬師神に戻ったか。
「琥王。ちょっと行ってくる。あの厄、世界を滅ぼしそうだ。でも回避の方法が、ひとつだけあった。俺と相殺させる」
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