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金曜日であったので、これから出発という段取りになった。森のくま、パン屋のバイトも夜は毎日来なくてもいいよと、義理の母親の芽実に言われていた。それは、受験勉強をしてもいいよだったのだが、他のバイトに当ててしまった。
荷物をまとめて部屋を出ると、塩冶が待っていた。荷物といっても、パソコンと通信機器さえ持っていれば、あとはどうにかなる。
「薬師神君。大黒君に造って貰った、最大級の厄避け。琥王に効くから、持っていて」
又、鈴であるのか。しかも、重い。重厚な音がするが、嫌な予感がする。
「もしかして、プラチナですか?この色」
この鈴、すごく高価そうであった。薄く光る銀色に、刻まれた精密な模様がある。それが、三個繋がり、鳴っていた。
「そう。もしもの時に、現金化できるグッズとしても便利でしょう。大黒君は、金の鈴をあげていたからね、上をいきたくてね」
何の上なのだろうか。
「俺の神様。必ず、帰っておいで。君の居場所は、ここだからね」
塩冶が、ハグしてくる。居場所というのは、この腕の中という意味であろうか。
でも塩冶は、結構、節操はない。塩冶は、女性にも男性にも恋人を作る。
「薬師神君、そんな不安そうな顔をしない。俺は、恋人は絞れないけど、神様は一人だけだからね」
どう解釈しろというのだ。それに、節操がないことも自覚していたのか。
「俺が見つけて、俺が育てる。この神様は、俺のものだから」
塩冶の息が首にかかる。いつもより、ハグが長い。
「誰にも渡さない……」
でも、もう出発の時間であった。俺が、身じろぐと、塩冶は笑顔になって、俺を離してくれた。でも、塩冶の笑顔には、冷たいものが潜んでいる。
「……俺は金にならないでしょう。大黒さんと組んだ方が、得なのではないですか?」
「金は要らない。欲しいのは、本物の神様」
塩冶の迫力が怖い。
えんきり屋に行くと、塩冶が七五三野を紹介してくれた、七五三野は身長が二メートルもありそうな、大きな男性であった。大きいが贅肉もなく、俊敏そうで、兵士のような雰囲気でもあった。髪は短く、色は浅黒い。
「初めまして?かな?薬師神君と、琥王君ね。しかし、小さいね、薬師神君」
俺は小さくない。七五三野が大きいのだ。
「手が子供みたいだね」
身長ではなく、手であったか。七五三野の手は大きかった。握手に出した手は、確かに、大人と子供の差ほどもあった。
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