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さよならを言ったら、泣きそうであった。でも、さよならを言わないと、琥王はいつまでも、俺の帰りを待っていそうだ。
「さよなら……琥王」
出会えて良かった。
俺は、闇の本体に向かって飛んでみた。地上では、千々石が和海を探している。千々石も、俺が闇との相殺を選んだように、和海を殺して、自分も死ぬ覚悟で動いていると、どこか解っていた。
空の中に、闇の中心があった。それは、何の塊なのであろうか。黒い翼の形をしていた。
闇の中心には、呪いに囲まれた神がいる。これは、何の神であったのだろうか。叫び疲れたのか、静かになった神は、悲しみから逃れるように、自らを消滅させてゆく。
消滅してゆく、希望と未来。闇に取り残されてゆく人間の、闇の構図が見えてくる。
「眠ってください」
空中では闇を浄化する、樹神の力が使用できない。でも、俺は空間を司る神も憑いている。
闇の本体から、その周辺を切り取るように、空間を分離する。
風が強く吹いてくると、俺の皮膚を切り裂いてゆく。かまいたちのような現象なのだろう。背が千切れて、腿の肉も飛ばされていった。
早く闇をどうにかしないと、世界は粛清され、人が滅んでしまう。
分離した空間を、封じ込める。
闇の触手が伸びていて、俺を取り込もうとしていた。
「千々石!」
千々石が、和海を見つけた。千々石が和海を抱き込むと、闇の中央に現れていた。
「闇ごと封じろ!」
そうするしかない。でも、完全に封じるには、俺の力は弱すぎる。
俺は、闇に近寄ると、闇に涙を流した。何て哀しい塊なのだろう。こんな寂しい存在は、見たことがなかった。
「千々石、俺も行くよ……」
封じる空間の中に、俺も入る。闇を相殺させなければ、漏れた闇が世界を滅ぼす。
「薬師神……」
空間を封じると、体中のあちこちが軋んで千切れていった。冷たく、寒い。死とは、こういうことなのか。
目を閉じると、走馬灯のように出会った人が現れては消えた。
でも、全てが無くなる瞬間、ふわりと何かに吸い込まれた。
「何?」
暗闇の中だが、温かく、柔らかい。
「和海が自分の中に取り込んで、俺達を助けたみたいだ」
千々石の声がする。闇だから見えないと、思い込んでいる。千々石の言葉を思い出して、闇を再度見てみた。
正面に、胡坐をかいて座る千々石がいた。
「どうして、和海が俺達を助けるの?」
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