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帰ってくるまでは、俺には瞬間であったが、千々石にはおよそ十年間、和海を制御し続け、守り抜いたのだ。その十年、俺に会う事も避けていただろう。
「千々石君?今どこに居るのか、調べようか?」
「大丈夫です。千々石は、ここに来ます」
神憑きと、神使いだから分かる。俺は、玄関に走り寄ると、ドアを開いた。
「お疲れ様……」
「やっと会えた。十年、この日を待ったよ」
千々石は、大人びた表情であったが、姿は高校生であった。千々石が右手を伸ばしていた。俺は、握手をする振りをして、千々石の手を掴むと中に引き入れた。
「闇から出ると大怪我でね、一年留年したよ。前は病気で、今回は怪我。今度も高校二年生だよ」
「和海の制御をしていたのか……成功したね」
千々石の手を握ったまま、リビングへと向かう。
「まあ、記憶がそのままでね。最初から俺は俺であったからさ」
神使いという能力もそのままで、時折、遠くから俺を見ていたという。
和海が闇を巨大化されたきっかけも、千々石は最初から知っていたので対応できた。千々石は、小声で、和海は世界中の何よりも濃い闇を内包したので、むしろ外側が光の存在になったという。それは、最愛の兄を、自分だけのものにしたということであった。
「まさか……」
「まあ、そのまさかよ」
千々石は最初から、和海の気持ちを受け止め、全て許した。千々石の周囲には、守るための闇が漂い。闇は、僅かに、俺にも嫉妬してくる。闇は、和海のものであった。
しかも、その闇が濃く、他者を決して近よされまいとしている箇所に問題があった。
「まさか……」
見てはいけないが、つい確認してしまう。
「確認するなよ、その通りだよ」
闇が和海の形を残していた。見てはいけないが、大きい。こんなものが、ここに入るものなのか。しかも、ここで動いたというのか。
そして何より、年下にされることを、千々石はよく許したものだ。
「……確認するなと言ったろ。その内、薬師神だって、塩冶さんか琥王が体験させてくれるよ」
それは、丁重にお断りしたい。これは、俺には無理だ。
「俺、女性経験はあるよ。そっちでいいや」
「俺だって女性経験くらいあります。まあ、それ以上に、こっちの経験も増えたけどね」
でも、こうやって和海が安定する程、千々石は愛されているのだ。その存在には、俺も安心する。
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