『人喰いの橋』

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「ちょっと、ごめんね」  七五三野が俺を、両手で持ち上げると、少し上下させていた。子供をあやすような仕草であった。 「軽いね。しかも、秀重さん。この子、神憑きですか?手が痺れますよ」  塩冶は、ポットにコーヒーを入れると、七五三野に渡していた。 「そうね。でも手が痺れるのは、七五三野の罪ではなくて、俺がやましい心で触れると、痺れるようにセットしているわけよ」  俺に、そんなセットなどされていたであろうか。もしかして、貰った鈴に秘密があったのか。 「そうなのですか?!!凄いですね!!」  再び、両手で持ち上げると降ろし、七五三野が手を確認していた。 「本当だ。最初は誘拐でもしてみようかと思っていましたが、次は何も考えないで持ち上げると痺れない」  誘拐とは何だろうか。七五三野の言葉に嘘は混じっていない分、考えると奥が深い。 「薬師神君、疑問が顔に出るね……俺、【愛の翼の会】にも入っていたことがあってね。そこで、神憑きという存在を攫えと命令されていた」  命令は、攫って殺せが正解であった。七五三野も俺に気を使ってか、殺せまでは言えなかったようであった。 「どうして?俺は、愛の翼の会には無縁でしょう」  塩冶は、困ったように笑っていた。 「薬師神君の、遠視と透視がまずいのだろうね。組織というものは、隠しておきたい事が多すぎる」  相手は、そんな能力まで知っているのか。 「さてと、琥王も行くのか?気をつけてね」  琥王は、荷物を背負うと、塩冶を睨んでいた。鈴が小さく鳴ったので、厄が揺れているのかもしれない。 「行ってきます」  七五三野の車は、塩冶様のものとのことだが、ワゴン車になっていた。ホテルで関係を聞かれたら、親類と答えろと言われた。 「あ、言うのを忘れていた」  俺は、車から降りると、えんきり屋に戻る。そこで、今日、現場で木の在り処が分かったら、すぐに飛んで戻ると伝える。朝の森のくまのバイトは休めない。 「無茶だね。でも、それとなく七五三野に説明しておく」  再び車に戻ると、助手席に琥王が乗り込んでいた。俺は後部座席に乗ると、イスを倒して眠ってしまった。 「ありゃあ、薬師神君は爆睡ね……高速で二時間くらい移動するからね」  七五三野は、ラジオを小さくかけながら、歌を唄っていた。  しかし、どうして俺が神憑きなのだと思ったのだろう。
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