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「あの、七五三野さん、俺は琥王、そっちは薬師神で、呼び捨てでいいですから」
「そうね。そうするかな」
七五三野は、普段は塩冶様の信者の送迎などもしていた。塩冶様に関わる前は、トラックの運転手もしていたそうだ。
年は、塩冶よりもやや上であるが、まだ二十代であった。
「しかし、琥王は二枚目だね。高校で、人気でしょう」
琥王が、世間話に付き合っていた。
「それで、何故、薬師神を神憑きと判断しましたか?」
琥王も、気になっていたのかもしれない。
「ああ、それね。琥王も、神憑きでしょう。どっか違うのよ。薬師神は、特に違っていたので、手に持ってしまったかな」
ここに存在していない雰囲気がするのだそうだ。七五三野、曰く、俺など質量があるのか不思議になるくらいだそうだ。
「でも、かわいいよね。薬師神の両手で持ちあげた時の驚いた表情。まるで、赤ん坊みたいに無垢」
ケラケラと七五三野が笑っていた。
「少し上に飛ばしてみたら、薬師神が不安そうに、じっと見つめてくるだろう。でもこの手は、絶対に自分を落とさないよね、みたいに、不安そうだったかなあ。あれで、全信頼で見つめられたら、クラクラきそうだよね」
「きますよ。全信頼で見つめられたら、嬉しくて、舞い上がって倒れそうですよ」
琥王が、静かに回答していた。
「ああ、だから秀重が執着しているのか。薬師神、秀重のこと全信頼の目で見ているからな……」
俺は、塩冶を信頼しているのだろうか。確かに、信頼していなければ、一緒になんて住めなかった。塩冶は、何があっても自分を守ろうとしてくれる。どうして、そう信じるのかは、自分でも分からない。
眠っているが、会話はどこかで聞こえていた。揺れが少ないので、安眠できる。琥王に起こされるまで、眠ってしまった。
「薬師神、到着したよ」
車を降りると、ホテルの正面であった。巨大なホテルで、何棟かあるようであった。中に入ると、人が行き交っていた。スポーツクラブも併設、温泉施設も併設されている、郊外型のリゾートホテルであった。
お土産売り場もいくつかあり、コンビニなども中に入っていた。
「結構、賑やか」
自殺の前に選ぶホテルではない。手紙のイメージから、寂れた旅館を想像していた。遠視でホテルを見ていたが、内部の施設や、人までは見ていなかった。
「荷物、降ろしたか?俺は、車を駐車場に移動してくるから、ここで待っていてね」
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