『人喰いの橋』

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 にこやかな、七五三野はその体格で人目を引いていた。ここで見ても、大きい。しかも、半袖から覗く腕には筋肉しかない。  ふらふらと店舗などを覗くと、レストランも確認してみた。レストランの大きな窓の向こうは、森になっていた。  ホテルの配置図を見ると、テニスコートや、他の運動施設もあった。イベント用なのか、野球場なのかのグランドもある。 「はいはい、お待たせ。チェックインしてきたよ。これが部屋ね。一人部屋に薬師神。琥王は俺と一緒だけど、我慢してね」  カードキーを渡された。 「はい」  これが、自殺した男性が最後に居た部屋であるのか。 「薬師神。部屋番号を教えて。結構、離れているね」  十一階に部屋はあった。琥王の部屋は、八階になっていた。琥王はカードキーを見ると、メモしていた。 「七五三野さん、ありがとうございました。俺、朝は居ない予定ですので、俺の分のチェックアウトをお願いします。ホテルの代金は、塩冶さんが支払済と伺っていますが、よろしいですか?」  木を見つけたら、飛んで帰る。 「まあ、聞いてはいるけど。本当に送迎だけでいいの?俺は、明日も温泉に浸かって帰るけどさ。琥王は、ゆっくりでいいかな?」 「……はい」  琥王が、俺を睨んでいた。俺は、飛んで帰るが、琥王までもは抱えて飛びたくはない。 「では、部屋に行きます」  琥王も、俺の後ろについてきていた。琥王は、エレベータに乗ると、十一階のボタンしか押さない。 「朝は森のくまのバイトだからさ。それまでには帰る」 「あのなあ。それまでに、木を見つけるの?」  見つけなくてはいけない。  部屋に入り電気を付けると、シングルの部屋は結構狭かった。コンパクトな、風呂とトイレ、ベッドの横にテレビ。ビジネス用にしては階が高いと思ったが、角のようで、間取りが悪かった。三角のような部屋になっていた。この角部屋だけ、安価に提供しているのかもしれない。窓の下にベッドがあって、窓の外を見るには、ベッドに乗らなくてはいけなかった。  ここで窓を開ける理由といえば、タバコを吸ったのだろうか。部屋を見ると灰皿があり、禁煙ではない。  靴を脱いで、ベッドの上の窓から外を見ると、暗い森しかなかった。  自殺した木の周辺には、白い花など無かったという。夕食を済まし、ベッドの上に立って、タバコを吸っていたのだろうか。  どうにもメモと部屋の配置が合わない。
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