漢と桜と粋な奴ら

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 某S県S市……  ここに今回の主な舞台となる、私立漢桜(かんおう)高校がある。少々変わったネーミング以外は、どこにでもある普通の学校である。  ドスッ!バキッ!ドカッ! ……っと、騒がしい音が教室から響いてきた。中を覗いてみると、男子生徒二人が取っ組み合いの喧嘩をしていたのだ。  そのうちの一人は、傷のついた強面(こわもて)の顔、ごつい筋肉、所々傷のついた大柄の身体をしている。  彼の名は、御手洗 丈夫。今回の主人公の一人である。  さて、彼の名前を一発で読める人は何人いるだろうか?実はこの騒動は、この名前を間違えて呼んだ男子生徒が引き起こしたのである。 「貴様ァ~!よくもワシの気にしてることをぬかしおったなー!!」 「うるせー!てめえの名前が読みづれえのが悪いんだろ!?」 「ワシの名は“みたらい ますらお”言うんじゃい!それを“おてあらい じょうぶ”とぬかす奴は許せんわい!!」 「へん!てめえなんざ便所でヤンキー座りしてる姿がお似合いだぜ!」 「その言葉、許せん!!」  丈夫はいきなり机を持ち上げ、相手の男子生徒目がけて放り投げた。  だが、彼はそれを軽々と避けて、 「おっと、そろそろ授業が始まるから俺は自分の教室に戻るぜ。また遊んでやるよ、おトイレちゃん」  と、さらに強烈な言葉を残し、男子生徒は教室から出て行ってしまった。 「待てッ!!逃がすかーッ!!」  怒りのあまり、今度は教卓を投げつけようとする丈夫を、クラスメイトたちは必死に止める。 「やめてくれ、丈夫!これ以上やったら教室が全壊しちまうよ!」 「離せ!あそこまで言われて引き下がっては男が廃るってもんじゃい!!」  丈夫が教卓を持ち上げたまま大声を張り上げ、教室全体を恐怖に陥れている最中、 「おはよう……ございます……」  こんな騒がしい状況ではもとより、静かな状態でも聞き取ることが難しいほどのか細い声とともに、小柄の女の子が教室に入ってきた。  大人しそうな外見に儚げな雰囲気、まるで繊細なガラス細工を思わせる娘である。
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