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「あっ、佳乃(よしの)!!何でもっと早く来ないのよ!」
クラスメイトの女子が、女の子-染井(そめい)佳乃の姿を見つけると、思わず大声を出した。
「ご、ごめん……今朝はちょっと貧血気味だったから……」
佳乃は申し訳なさそうに言ったが、
「そんなことはいいの!とりあえず早いとこあいつを何とかしてよ!」
「あいつって……丈夫くんを?」
彼女が周囲を見ると、まだ教卓を持ち上げ、叫び声を上げ続けている丈夫の姿が目に入った。
「ああなっちゃったら佳乃ちゃんしか止められる人はいないんだ、頼む!!」
他のクラスメイトたちも懇願するような表情で佳乃を見る。
「う……うん……」
佳乃はこくんと頷くと、意を決した表情で暴走している丈夫の所へ近づいた。クラスメイトたちは、固唾を飲んでそれを見守る。
「……丈夫くん……!!」
か細いながらも毅然とした彼女の声に、丈夫の体がぴたりと止まった。
「んぐっ、よ、佳乃!?」
丈夫は佳乃の姿を見ると、教卓を下へ落とした。
「そんな…教卓を持ち上げて…どうするつもりだったんですか?」
「いや、これはだな、ワシのことをトイレとかぬかしおった輩に報復するためにだな…」
佳乃のまっすぐな視線に、丈夫の口調が急にしどろもどろしたものになる。
「それにあやつの方がワシを馬鹿にした以上、男としては黙ってはおれんじゃろ?」
「だからと言って…暴力で報復するのが…本当の男だとは…私は思えません」
「うッッッ!!」
佳乃の言葉に、丈夫はぐっと詰まった。かまわず彼女は続ける。
「本当の男なら…もっと心の器が…大きいはずです。…些細なことで…騒いだりは…しないですよ」
「ぐっ、ううう……」
丈夫はがっくりと膝をつき、頭を垂れる。
「おヌシの言う通りじゃ……ワシもまだまだ男としての修業が足りんわい……」
彼の言葉に教室にいた生徒たちが、いっせいに安堵のため息を吐いた。
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