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後輩は月に2、3度のペースで
顔を出すようになった。
会社の人達と一緒ではなく
肩の力を抜いてホッと一息、的な感じ。
必ず1人でやって来る。
「いらっしゃい」
「珈琲を。カワイイ黒猫ですね」
……もう、空のこと忘れてしまったのか?
「美味しい。今度はゆっくり飲みに来ますね。サングリア、好きなんです」
大人びた微笑みを浮かべた後輩に
俺は2度目の恋をしたんだ。
半年が経過した頃に
車通勤でサングリアが飲めなかったと
教えてくれたんだよな。
なぁ、この店の名前知ってる?
『far away』遥か彼方っていう意味。
はるか、かなた。
後輩の名前は「春花」で、
俺の名前は「奏太」だから。
気づかなければ店主と客の関係のまま。
もし気づいたら、俺にチャンスはある?
定番はサングリア。時々、珈琲を飲む。
後輩は鈍いって言われた俺の更に上をいく。
空と戯れる姿は昔のままだ。
後輩の側に置いてある額の中には
幼い頃の空と俺がいるのに。
ったく!写真を撮ってくれた張本人だろ?
会えて嬉しいのに不機嫌になる。
フクザツな気持ちなど知るよしもない。
ま、旨そうに珈琲を飲む時間を
共有しているだけで、しあわせなんだよ。
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