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「今までお世話になりました」
ぎこちない笑顔で車に乗り込んだ。
サッとバックミラーを確認して
シートベルトをカチャリと装着。
窓を開けて俺に手を振るのは2コ下の後輩。
「何かあれば連絡しろよ?」
「ふふっ。ありがとうございます。
元カレには教えないで下さいね?」
「当然だろ?個人情報を流出するような奴に
見えるんだな、俺は?」
「ンもう。そういう意味じゃないのは
奏太先輩が知ってるクセに。空、またね」
“空”とは俺に抱かれた小さな仔猫。
全身が黒毛並みで覆われており、
瞳はスカイブルーの俺の愛猫。
恋人の浮気癖が治らず悩んでいたが、
転職を機に別れを決断したという。
職場に近い場所へ引っ越すことで
元カレとの縁をバッサリ絶つ潔さ。
期待と不安に揺れる後輩を1人の女として
意識し始めたばかりだったのに。
「ダッサ、俺」
「にー」
かわいく慰めてくれる空を優しく撫でながら
見えなくなる車を見送っていた。
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