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俺はしばらく茫然と立ち尽くした。
「ど…どうしよう…」
休憩室に戻った俺は、黒姫が置いていったチケットをテーブルに置き、それを前に頭を抱えた。
「いずみちゃんにデートにでも誘われたか?良かったじゃねーか」
部屋に入ってきたとも姉が声を掛けてくる。
「良かねーよ!
誘われたのは女装姿の俺だぞ?」
「…ふぅん。
でも、あんたがそんな格好をしてもバイトを続けてるのはあのコの為なんだろ?」
全てを見透かしているようなとも姉の言葉には俺は黙り込んだ。
確かにその通りだ。
いくらとも姉に脅されて始めたバイトとはいえ、辞めようと思えばいつでも辞められた筈だった。
でも俺はそれをしなかった。
黒姫にタイマンで負けたあの日から、彼女の目に宿る孤独が気になっていた。
そして、この喫茶店で、普通の女の子みたいに楽しそうに喋る黒姫に出会った。
俺はそんな黒姫をずっと見ていたくて…。
「女装して行くって言うなら、手伝ってやってもいいぞ」
とも姉がそう言ってくれるが、
「でも一緒に銭湯に入れんだろ!」
「女の子の日だとか何だとか言って、入るのだけは断ればいいだろ」
「………」
女の子ではないが、この際、とも姉の提案に乗るべきか否か。
「まぁ、どうするかは自分で決めな」
考え込む俺に、とも姉はそう言い残して出て行った。
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