坂本と海と

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「……ほうか。なら、生きればええき。 好きなだけ、いきればええんじゃ」 男はいつの間にか、俺と遠く離れた場所で此方を見ていた。 無造作に束ねられた男の剛毛が、風に靡く。 「生きろ!!そして、納得して死ぬとええき」 男は歩き出す。 俺とは真反対の方に向かって。 もう、手の届かない場所に近づいていた。 「貴方は…貴方は何処に行く!?」 俺は叫ぶ。 男は、振り向くことはなかった。 けれど 「ーー先にじゃ!!まだ見ぬ世界を見に行くがじゃ!!」 声だけは、俺へと真っ直ぐに向けられていた。 「そうか。貴方なら、成せる。きっと…」 米粒のように小さくなった男の背に向かって、また叫ぶ。 これが、最後の叫びだった。 「名前を聞かせてくれ!!せめてもの手土産だ!」 男の姿は、もう見えない。 「ーー坂本じゃ!! しがない浪人、坂本 龍馬じゃき」 龍馬。坂本、龍馬。 ウサギや猫とは、えらい違いだ。 龍馬。いい名前だ。 きっと、龍のごとく長生きするに違いない。 馬のように速く危機を脱して、勇猛果敢に自分の魂を全うするだろう。
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