28人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ほうか。なら、生きればええき。
好きなだけ、いきればええんじゃ」
男はいつの間にか、俺と遠く離れた場所で此方を見ていた。
無造作に束ねられた男の剛毛が、風に靡く。
「生きろ!!そして、納得して死ぬとええき」
男は歩き出す。
俺とは真反対の方に向かって。
もう、手の届かない場所に近づいていた。
「貴方は…貴方は何処に行く!?」
俺は叫ぶ。
男は、振り向くことはなかった。
けれど
「ーー先にじゃ!!まだ見ぬ世界を見に行くがじゃ!!」
声だけは、俺へと真っ直ぐに向けられていた。
「そうか。貴方なら、成せる。きっと…」
米粒のように小さくなった男の背に向かって、また叫ぶ。
これが、最後の叫びだった。
「名前を聞かせてくれ!!せめてもの手土産だ!」
男の姿は、もう見えない。
「ーー坂本じゃ!!
しがない浪人、坂本 龍馬じゃき」
龍馬。坂本、龍馬。
ウサギや猫とは、えらい違いだ。
龍馬。いい名前だ。
きっと、龍のごとく長生きするに違いない。
馬のように速く危機を脱して、勇猛果敢に自分の魂を全うするだろう。
最初のコメントを投稿しよう!