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ーーー
「京に向かう」
眼前にいる男は、はっきりとそう言った。
広いとは言えない部屋の一室で、俺たちは確かにその言葉を聞いた。
何故とも、分かったとも…言葉に出すものはいなかった。
皆、若先生の…近藤さんの言葉を待っていた。
「……」
ここにいる連中はみんな、近藤さんの人望に寄って集まった者たち。
何をするにも、どこに行くにしても、近藤さんと共にありたい。
何故か、自然とそう思うのだ。
特に宗次郎は、人一倍その思いが強い。
それは、誰の目から見ても分かるほどに。
何が宗次郎にそうさせるのか、誰にもわからないけれど。
止める術があるとも、思わなかった。
そして、止めなかったことを後悔する日が来るなんて事も…。
近藤さんは、黙ったまま。
時間ばかりが過ぎていく。
緊張感。
ただそれだけが、部屋を占めている。
俺の息遣いは次第に浅く、速くなっていた。
やがて
「ーーー行こう」
近藤さんは、すべてを覚悟した眼でそう言った。
力強い、俺たちの大将の言葉だった。
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