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「俺は、死んだ」
「……」
「死んだんだ」
そうだ、死んだんだ。
死んでしまったんだ。
俺はもう、生きてないんだ。
男の横を通り過ぎて、さざ波に向かって歩く。
後ろから、男が付いてくるのがわかった。
「儂もじゃ」
男が、消えそうな声で言った。
あまりのか細さになぜか胸が締め付けられて、立ち止まりそうになった。
けれども、そんな俺を拒むかのように、男は続けた。
今度は、芯のあるはっきりとした声だった。
「儂も、生を持たざる者……死人じゃき」
男は俺に追いついて、隣に並んだ。
改めて並ぶと、自分と男の身長差が目立つ。
畜生、俺だって大人になればそのくらい。
「オマンと一緒じゃき」
「そう。嬉しくない偶然だな」
「同感じゃ」
どこからか、風が吹いて、通り過ぎた。
甘い、潮風とは違った、懐かしい香りだった。
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