袋小路

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あれ以来、綾子は一度も友弘に会っていない。 でも、別れてからのほうが、友弘をより身近に、愛おしく感じている。 ただ愛おしく、切なく、綾子の胸を今でも占めている。 あの頃は、友弘の中に無意識に良弘の面影を探していたのに、 こうして良弘と過ごしている今は、 良弘の何気ない仕草や言葉の中に、 なぜ今度は友弘を見つけてしまうのだろう。 良弘を見つめてきた、子供の頃からの長い年月。 今も昔も、自分は変わらず、良弘を愛している。 それは間違いないし、 そのために友弘を傷つけた罪から、目を逸らすつもりもない。 結婚という形を取らない今の良弘との関係を、世間に恥じる気もない。 なのに、友弘が愛おしい。 きっと昔より今のほうがずっと、 友弘を愛している。 いや、あの頃も確かに自分は友弘を愛していたのだと、 綾子はこの時ふいに、気がついた。 友弘の中に良弘を見ている、 そう思い込んでいたあの頃の自分。 それは、今、良弘の中に友弘を感じている自分と、何も違わないではないか。 ただ真っ直ぐにぶつけられていた、あの頃の友弘の愛情にも、嫉妬にも、 応える術は、ただ黙って友弘に抱かれる他に、 もっとあったはずではないか。 綾子は初めて後悔した。 なぜ今頃になって、気づいてしまったのだろう。 だからといって、良弘への今の気持ちは変わらない。 ――もう、遅い。いや、遅いのではなく、いつ気づいたとしても、この思いに、出口はない。 思いの多寡とは別次元で、綾子には良弘も友弘も、大切な存在なのだ。 すべては自分の蒔いた種。 自分で選んだ、言い訳のできない、真実。
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