袖風の縁

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そして耳元で囁いたのだ それはそれは小さな声で 「俺は君の方が好みだけどね」 はっ。 あろうことか 自分に酔いしれていると思ってバカにしていた男は 読書するふりをして 人間観察をしていたのか 自分が情けなくて 笑い出したくなる これが現実 あの人は 風邪などひいてない 度々あった 腑に落ちない事が 霞が晴れ渡るように 明確になっていく バカ男はまだ困惑顔でこちらを見ている この人の何を見て どこを好きだったんだろう 行きつけの店に どの女も連れて行く無神経さ あのバカ女が可哀想に思えてくる 「さ、行こうか」 読書男に促され 私は椅子に掛けてあった ショルダーバッグに手をのばした 「サングラス忘れてるよ」 読書男が親切に教えてくれる 「もう。必要ないの 季節が変わってしまったみたい ほら、秋風が吹いてるわ」 「秋風とは 古風な事を言うね。」 「そうかしら。」 恋は移り気だ 名前も知らないこの男と 新しく始めてみるのも 悪くないと 思い始めている この男もいつか風邪をひくかもしれない それでも 始めてみたい 「ねぇ?」 あなたのこと教えてくれる?
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