その奥に

３

「輝明、たまにはまた店来てよ？」

会計を済ませて店から出ようとしたとき、千晶に呼び止められた。

「おう」

実現するかわからない約束をすると、千晶は満足そうに笑った。

「今度は私が会いに行くかも」

相手に伝わるか伝わらないかくらいに軽く頷き、思い出の地を後にした。

千晶とは何があったわけでもなく、自然消滅だった。

気づいたら全く連絡を取っていなくて、風の噂で向こうに彼氏ができたと聞き、その時にはもう既に互いの想いなんて自然と消えていた。

千晶の一言一言が俺に対するアプローチだということはわかっていて、俺は何もわからないふりをした。

恐らく、千晶は新しい彼氏とは別れているのだろう。

本人の言ったとおり今度は千晶がこっちに来るなら、期待も恐れもなしにただ普通の友達として迎え入れよう。

なんとなくそう腹に決まった。