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僕の目の前に洋菓子売り場の椎名さんがいる。
「お兄さん、大根頂戴。2つね」
椎名さんの隣の男が僕に注文した。
「はい、どうぞ」
僕はカウンター越しに、鰹節が揺れる大根の小皿を、1つはその男に、もう1つは椎名さんに……
「ここの大根、美味しいんだよなぁ。
三日間炊き込んでるんだって」
横取りされた大根の小皿が、男から椎名さんの前に置かれた。
男と椎名さんの肩が、そっと触れた。
「うふっ、美味しそう。これおかわり」
椎名さんが空になったグラスに指を置いた。
「お兄さん、上善を彼女に」
「はい」
僕は椎名さんの前に置いた新しいグラスに地酒『上善如水』をなみなみと注いだ。
彼女は、まさに水の如く、それを喉に流し込んだ。
上気した頬は、生々しく美しい。
「少し行ってくるね」
椎名さんはグラスを置いてそう言うと席を立った。
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