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呆れた声を出しながら、大きな手の平でこちらの体を押さえ付ける。
「お前は誰だっ」
掠れたが、辛うじて出る声を絞り出した。
「その質問は、そっくりそのまま返すよ。お前は誰だ?」
「僕は……」
答え様として言葉に詰まった。
何も思い出せない。
僕は誰だ?
自分の年齢も、名前も、一体どんな顔をしていたのかさえも。
「答えられんだろう」
見透かした顔の相手を睨むしかなかった。
きっとコイツが、僕の記憶と自由を奪ったのだと。
「まあ焦らず眠るんだな。あんたはそうするべきだよ」
「僕をどうするつもりだ」
男が持って来た器から漂う煙の匂いに意識が遠退く。
くそ、せっかく得た自由を奪われる訳には行かないのに。
抵抗したくとも僕の体は動かず、意識すらも刈り取られて行く。
ああ頼む、誰か助けてくれと絶望の中、願った。
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