其の弐_記憶喪失

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女子工員達は一目散に山を目指して小路を走り、小川を渡って竹薮に逃れようとする。 振り向くと、ドロドロドロという機械音がすぐ近くの上空まで来ていることに気づく 見上げるとその主は胴体や翼に黒丸地に白で1つ星ペイントされているプロペラ式の 戦闘機=大東亜戦争時代の米軍機であることに気づいた。 ダダダダと異なる機械音が翼の辺りから聞こえて機銃掃射による 火線が逃げ惑う女子工員達を 次々に肉塊に変えていく。 小川は血の川と化し、川を渡って走って竹薮まで逃げようとするあかりにも 着弾音が近づいてきた。 (弾が当たっちゃう。今度は死ぬのね。) また視界が全て闇に包まれ、意識が遠のいていくあかり。 夢の中で意識が戻ると、視界が明るく開け、 椰子の木のある砂浜に腰を下ろしている。 隣には、変わらず黄土色の帽子・上衣・ズボンに身を包んだ男が 腰を下ろしている。 「私の体験した、この記憶は、誰かの記憶なの? まさか・・・」 「一条トセさん、あなたの祖母の妹にあたる人です。」 「あの空襲で?」 「そう、鬼畜米英の空爆・虐殺によって無念の死を遂げられました。   自分は、大東亜戦争が終わり、任務遂行後はトセさんと結婚する予定で  おりました。」 「なぜ、私にこの事を伝えたの? 夢の中に現れて、記憶喪失にしてまで?」 「今回はここまでが限界です、あかり殿の精神に、これ以上、連続して負荷をかけられません。」 「ちょっと待って、あなたは一体・・・」 視界がまばゆい光で真っ白になり、がばっと布団からおき上がるあかり。 夢の中の記憶喪失状態は解けて、全ての記憶が戻っている。 しかし、今度は夢の中の出来事や会話がなぜか想い出せない。 想い出そうとすると脳のその部分の記憶領域が封印されているかのように ズキズキと頭が痛む。 「あかり、ずいぶんうなされていたようね。」 枕元で母親が心配そうにあかりを覗き込んでいた。
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