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「な、んで?」
あまりの驚きに、思わずこぼれた言葉。
対する彼は、頭をポリポリと掻きながら、普段通りのマイペース。
「いや、機材繰りの関係でフライトがずれたから、遊びにきた」
「だ、だったら連絡ぐらい……」
「したけど、返事なくて。
いないかな~とは思いつつ、一応来てみた」
あ、そういえばスマホ忘れてた。
「それにしても、前も思ったけど、ちょっと大袈裟だから。
そりゃあ、国際線のパイロットって大変な仕事だけど、毎回毎回彼女が見送りにくるとか聞いたことないって。
今回は、ほんとに勉強だけで、見てるだけだしさ」
あ、そういえば「就職先は航空会社だよ」って聞いた気が……。
でも、そんなことはどうでもいい。
涙が溢れ、止まらなくなる。
彼も、彼も私をそう思ってくれてたんだ。
「わわ、なんで泣いちゃうのよ」
突然泣き出した私に、彼が慌てる。
そんな彼をもう少し困らせたくて、彼の胸に飛び込みながら、その大きな胸を叩く。
「バカ!寂しかったんだから!」
「なんか、ゴメン」
「謝ったって許してあげないんだから!」
「そ、それじゃ、お土産買ってくるからさ。
それで……」
なんでそうなるのよ!
子供みたいじゃん!
いや、まぁ、嬉しいけどさ。
でも、そうじゃない。
私が欲しいのは違うもの。
だから、私は顔を真っ赤にしながらも、勇気を振り絞って一歩を踏み出した。
「……してくれたら」
「え?」
「キス!してくれたら許してあげる!」
恥ずかしいのを堪えて溢れた言葉は、多分、周囲に響き渡るほどのボリューム。
それを聞いた彼の顔もまた、みるみる真っ赤に染まる。
それでも、少し屈んで私を真っ直ぐ見つめた。
「え、え~と、うん。わかった。
そ、そういえばまだしてなかったしな。
じゃ、じゃあいくぞ」
それ以上の言葉はなく、私達は唇を重ねる。
ゆっくりと、お互いの存在を確かめるように。
優しく、互いを慈しむように。
繋がりが途切れずに、何処までも一緒に歩んでいけるように。
そんな私達を祝福するかのように、ドレミファの音階とともに電車が発車していく。
「とりあえず飯食いに行こう。
それで、色々話そうな?」
「うん」
そして、私達は黄色い電車に乗り込んだ。
噂、ほんとだったんだね。
『黄色い電車を見たら幸せになれる。
だから、ハッピートレインって言うんだよ』
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