中毒者

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 彼のその行動は、お預けを食らった犬の前で肉を貪り食う意地汚い飼い主を見ているかのようで、はなはだ不愉快であったのだ。逆に目の前で煙草をふかしてやろうかしらとも考えたが、オフィスは禁煙なので不可能であるから始末が悪い。  禁煙中の椎名は、喫煙所に現れることもないわけである。  これじゃあ、私が一方的にやられているだけではないか。最初は気にならなかったが、ふとそんな思想に駆られると、むくむくとそれが枝葉を広げ、胸中を席巻していく。  一度、気にし始めると注意力が散漫になるまで気にしてしまうのが私の性質なのである。我慢の限界であった。私はいてもたってもいられずに部長室へと飛び込んだ。 「また君かね」  部長はやはり、たいして驚いた素振りも見せずうつむきがちにそう呟いた。 「まだ何も申し上げておりませんが」 「みなまで言わずともわかるよ。君が手に持っているそれはなんだね?」  私の両手には煙草の箱が握り締められている。部長は困ったようにため息をついた。 「まったく、これもある種の中毒かね」   
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