中毒者

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 私には、どうしても我慢ならないものが三つある。  一つは、常温の白ワイン。もう一つは、火を入れすぎたカルボナーラ。そして、三つ目は椎名課長のタバコである。  今日も「休憩はいります」と言ってデスクを離れたきり、もう十五分である。私は業務の停止した彼のデスク上のパソコンをちらと伺うと、苛立ちを押さえるようにボトルコーヒーを飲み干した。  人事課長の椎名は、私の直属の上司である。私とそれほど年齢が違わないにも関わらず課長の地位にいるだけあって、仕事ぶりはスピーディだ。一方の私は、体育会系特有の根性論に任せ、ロスの多さによって生じる仕事の質の低下を体力と量でカバーしていた。  そんなわけだから、業務上の意見の食い違いはよく起こっていたし、性格的に水と油なのも分かっていた。ただ、あくまでそれは仕事をするうえでは必要なことであったし、私に非がある際にはあっさりと引き下がり、無能のそしりを受けるのもいとわなかった。  ゆえに、私はなにも椎名課長の人間性や人格を嫌っているというわけではない。まして彼の立身出世ぶりへの妬みや嫉みといった野卑な感情があるわけでもない。むしろ、彼の仕事ぶりには見習うべきところも多いくらいだ。  私が許せないのは、椎名課長のタバコのこの一点のみである。
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