中毒者

「私が針小棒大にことを荒立てているとでもいうのですか。部下は上司の背中を見ているものです。課内の模範たるべき課長があれで、どうして職場の均衡が保たれるでしょうか」

　部長は渋い表情で頷いた。

「そりゃ君の主張も分かるがね。彼がヘビースモーカーだから仕事の能率が下がったなんてことになれば本末転倒だが、そうではないだろう。喫煙室でしっかりと分煙もしているし、ただでさえ愛煙家は昨今、肩身の狭い思いをしている。仕事の際のちょっとした楽しみでガス抜きをする気持ちを、君だって分からないではないんじゃないか」

　なるほど管理職らしく懐柔しにかかったか。ことなかれ主義の部長としては厄介の火種は速やかに処理するに尽きるのであろう。

　だが、私が我慢ならんのである。実害はあるのだ。私は大きくかぶりを振った。

「いいえ、分かりませんね。私が言いたいのは、時間が有限だということです。確かに能率は下がっていないかもしれませんが、それはあくまでも喫煙者としての椎名課長の話です。こういうのは喫煙に割く時間を仕事に充当した椎名課長という比較対象がいないと成り立たんものですよ」　

　そこまで言って激しいのどの渇きを感じたので、私は持ってきていたボトルコーヒーのうちの一本をぐびぐびと一息に飲み干した。

　部長は煮えきれない態度で好々爺のような表情を困ったように崩すのみである。私はさらに続けた。