中毒者

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「君の好きなそもそも論を持ち出すとだね、そもそも君たちが正義や善の後ろ盾として振りかざしているその健康志向なんてものは、土台の安定しないものでね。ここ数十年を見たって、食品研究の結果、健康とされてきたものが実は不健康で、不健康とされてきたものが場合によっては健康だった、なんて発見がいくつもなされてきたわけだ。第一、中毒というのなら……」  椎名は私の手元をぎろりとにらんだ。「君だって中毒なんじゃないか?」  一瞬、なんのことだか分からず、私はたじろいてしまった。 「それだよ、それ。君がさっきから手に持っているそれだよ」   指で指されてようやく気付いた。私の両手には、もう空になった三本のボトルコーヒーが握り締められていた。 「俺も前から言おうと思っていたんだ。君こそカフェイン中毒だろう」 「なっ」  虚を突かれた私は暫時、唖然とした。  私が中毒者? 「だってそうじゃないか。君、出社してボトルコーヒーをあけたの何本目だ? カフェインは依存性があるからな。常態化すれば水分補給代わりにぐびぐびと飲んでしまう。当然、カフェインには利尿作用があるから身体からは水分が出る一方だ。猛烈な喉の渇きに襲われ、またコーヒーに口をつける。君が陥っている悪循環さ」 「そ、そんなことあるわけがないじゃありませんか」 「本当にそうか。それだけ一息にコーヒーを飲んだんだ。そろそろくる筈だぞ、利尿作用の効果が」  課長がそう言い終わらぬうちに本当にやってきた。強烈に便所へ駆け込みたい衝動に襲われたのだ。思わず下腹部を押さえる。
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