中毒者

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◇  私がコーヒーを、椎名がタバコを禁じられてから三ヶ月が過ぎた。意外なことであったが、その間、業務が混乱することも、私や椎名がやたらと苛立ち、ストレスを部下への叱責で発散するというような悩ましい事態にことが発展することもなかった。  つまりは、毎日がつつがなく進行していたのだ。  ややもすると、中毒なんてものは習慣や癖のようなもので、第三者から強い禁止勧告を受ければ存外、容易に脱出可能なのかもしれない。私はそんな風に考えるようになっていた。  しかしながら、こうやって平穏が訪れたかに見えた今でも、私には、どうしても我慢ならないものが三つあった。  一つは、原理主義。もう一つは、即物主義。そして三つ目は、椎名課長のコーヒーである。  喫煙を禁止されてからこっち、椎名も意地になっているのだろうか、タバコを私生活においても一本たりとも吸っていないようだったが、その代わりにコーヒーの摂取量が日に日に増えていった。
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