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「まずは遺体の第一発見者のところへ行こう」
新聞記事を僕から取り返した大和は学生寮の方角に歩き出した。
冬の終わり、毎年この季節に決まってある初春の嵐がやってきたのは一昨日の夜だった。それはちょうどアマデウスが死んだ晩だ。渡り廊下のトタン屋根の上を、バケツの水をひっくり返したような雨がひっきりなしにスタッカートを打ち鳴らす。隙間から吹き付けてくる横殴りの強い雨のせいで、もともとくせ毛の髪はさらにじっとりと重さを増していた。
だが目の前を歩く少年には、そんな憂鬱な空模様など一向に気にならないらしい。はやる気持ちを抑えきれないのか、スキップのような足取りで歩いている。
「遅いよ」
頬をふくらませながら僕の左手を引っぱった大和は、すぐに「ごっ、ごめんなさい!」と両手を上げて、ぴょんと後ろへ飛びのいた。
「あの……知らなくて、手が……」
「ああ、義手のこと?」
僕は右手で左腕を持ち上げてみせた。それを離すと、腕はだらんと半円を描いてだらしなく揺れた。
僕の左腕は、幼い頃に遭った事故のせいで肘から先がない。使っている義手は装飾用と呼ばれるもので、腕の外観を再現する役目しか負っていない。そのため物を持ったり、握ったりすることはできないが、片腕の生活にはとっくの昔に慣れてしまい、今ではピアノを弾きながら楽譜が書けないことが少し不便なだけだ。
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