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第一発見者は、詩文科の有栖川という生徒だった。学生寮の彼の部屋を訪ねたが、あいにく留守だった。
「やっぱりこんな不謹慎な探偵ごっこはやめろと神さまが言っているんだ」
「じゃあ、アマデウスが亡くなったという彼の部屋に行こう」
大和は僕の言葉を無視してすぐに歩き出した。
アマデウスの部屋は作曲科寮の最上階の角部屋だった。若干息を切らしながら階段を上りきると、廊下の一番奥に人影があった。
「あれ? あれれ?」
その人影はこちらを見るなり、大声でそう声を漏らしながら、ずんずんと早足で僕たちの方に近づいてきた。顔は影のせいで上手く見えなかったが、キューティクルが光る、その特徴的なキノコ頭と、ハムスターのような小柄で丸っこいフォルムでそれが誰だかわかった。
「やあ」
「やあって、お前……」
友好的に片手をあげた僕とは反対に、その小さな体からは想像できない力で僕の体を壁に押しつけると、雨でうねった前髪を執拗に何度も指で弾いた。
「何してんの? っていうか何、この長い前髪は」
「やめろよ、前髪は関係ないだろっ」
僕はズレた眼鏡を直しながら、顎と視線で必死に後方を差した。
「ん?」
大和がきょとんと目を丸くして立っている。大和の存在に気づいた青年は慌てて僕から離れると、
「どちらさま?」
と怪訝な顔をした。
「えーと、アマデウスの死の真相を暴きだす名探偵だよ」
「三之大和です。中等部一年、作曲科」
大和ははきはきとした口調で答えた。
「あなたは演劇部部長の有栖川慧さんでしょう?」
「そうだけど」
「あなたが書いたこの前の文化祭のオペラ、見ました! 心情表現の演出、エッジが効いていて最高でした!」
最初は訝しがっていた有栖川だが、大和のゴマすりにすっかり気を良くしたようだった。単純な奴だ。
「ところで、アマデウスの部屋の前で何をしていたんだ?」
「遺品を整理するよう、教師に頼まれたんだよ」
そう言って有栖川は肩にかけていた大きな布バッグを見せた。
「ご一緒してもよろしいですか?」
「おい」
強引な大和を止めようとしたが、有栖川は僕を制し、にっこりとうさんくさい顔で微笑んだ。
「まあまあ、いいじゃん。何も見つからないかもしれないし、何か見つかるかもしれない。そこは探偵さんの力量次第、でしょ?」
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