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有栖川はまるで自分の家のように自然な動きでソファに座り、その向かいのソファにも大和が座ってしまったので、僕は仕方なく壁にもたれかかった。いくら乾いているとはいえ、血のついたベッドに腰掛ける気にはなれない。
「あなたはアマデウスの遺体を一番初めに発見したそうですね」
大和はメモ帳とペンをポケットから取り出すと、早速質問を始めた。
「そうだよ。時間はちょうど夜の七時くらいだったかな。今度やるオペラに関して、彼の助言を聞こうと思ってね。ドアをノックしても返事がないから、仕方なく部屋に入ったら、倒れていた彼を発見しちゃったってワケ」
「鍵は開いていたんですか」
「うん」
「アマデウスは普段から鍵を閉め忘れるようなタイプ?」
「いいや。そういうところはきちんとしてた」
だからおかしいと思ったんだ、と有栖川は記憶をたどるように視線を上にあげた。
「このワイングラスもその時からあったもの?」
大和が指さしたのは、テーブルの上に置かれたワインボトルだ。
「あー、気が動転していたから断言はできないけど、たぶんそうかな。アマデウスは普段からワインが好きだったから」
「ワ、ワインが」
「それから煙草もね。自分は半分ドイツ人だからいいんだとかふざけたことを言ってた。バレたら退学なのにさ」
どうかこの純情なアマデウスファンの幻想を壊さないでくれと僕は視線で訴えたが、どうやら有栖川には伝わらなかったようだ。
「あ、あなたもよく飲んだの?」
「私? まあね」
私はワインなら白より赤が好きだけど、と転がったワインボトルを持ち上げながら、有栖川は呟いた。
「この部屋に来る前まで、あなたは何をしていたんですか?」
「授業が終わったあとは、部屋にこもって脚本を書いていたよ。一人でいたから、証明できる人はいないけど」
その後、有栖川は本棚の整理を始め、大和はちょこまかと部屋中を動き回って気がついたことをメモにとっていた。僕はといえば特にすることもなかったので、簡易キッチンの流しに寄りかかって、そんな二人の様子を眺めていた。
「あ」
突然、ソファの下を覗いていた大和が声を上げた。
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