蘭世の証言

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 有栖川が廊下の角に消えたあと、大和は僕に肩車をするよう頼んできた。 「なんでまた」 「いいから」  片手でなんとかバランスを保ちながら大和を持ち上げると、大和は手を伸ばして天井の電球に触れた。すると、切れていた電球がついて辺りが明るくなった。 「緩んでただけみたい」 「それで? 次は誰に話を聞きに行くんだ?」  肩から下ろした大和に訊ねると、大和はポケットからさっきのメモ帳を取り出した。 「次は鈴木蘭世さんのところへ行こうと思う」  例のアマデウスの恋人だ。僕らはすぐ隣の声楽科の学生寮に行き、入り口付近にいた生徒から教えてもらった鈴木蘭世の部屋を訪ねた。 「どなた……?」  中から出てきた蘭世の姿に、僕はギョッとし、慌てて大和の目を手で覆った。そしてほぼ怒鳴り声で叫ぶ。 「刺激が強すぎるので着替えてもらえますか!?」 「あら、ごめんなさいね」  下着の上に黒いシースルーの長いガウンを羽織っただけの状態で出てきた蘭世は、残念そうに部屋の奥に消え、そしてすぐに戻ってきた。今度はちゃんと黒いセーターワンピースを着ている。ただし大きく空いたVネックの襟から白い胸元が丸見えになってはいたが。 「それで? ご用件は?」 「三之大和と申しまして……アマデウスの……その……死の真相を調査していて、アマデウスの恋人だという鈴木さんにお話を聞きに来たんです……」  大和は完全に下を向き、もじもじしながら言った。顔を上げれば蘭世の胸元に釘付けになってしまうからだろう。蘭世は笑いながら僕を見た。 「あなたの方は何をやってるの?」 「彼に聞いてください」 「相変わらず面白い人ね。いいわ、なんでも聞いてちょうだい」  蘭世はそう言うと、僕らを部屋に通してくれた。  初めて入る女子の部屋に緊張しているのか、大和はきょろきょろと落ち着きなく辺りを見ていた。ピンクの家具や棚にはファンシーな雑貨が並べられていて、いかにも女の子の部屋という感じだ。 「ごめんなさいね、散らかっていて」 「全然!」  ふるふると首を横にふると、大和は蘭世を上目遣いで見た。 「あのぅ、もしかして、この前の文化祭で演劇部のオペラ『マノン』で主役を演じた方でしょうか……?」
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