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「ねえ、アマデウスが殺されたかもしれないって噂は知ってる?」
大和は突然、ズボンの尻ポケットから小さく折りたたまれた紙を取りだした。それはアカデミーで発行されている学院新聞の切り抜きのようだった。見出しには大きく「若き作曲家アマデウスの死の真相!!」という文字が躍っている。記事にはアマデウスは何者かによって毒殺された可能性があると書かれており、その容疑者として数名の生徒の、明らかに隠し撮りされた写真が載せられていた。
「そんなのはただの根も葉もない、くだらない噂話だ。だって彼は急病だって聞いたよ」
だが、そんな噂話が広まるのも不思議ではなかった。
大正時代に建てられたというネオロマネスク建築の白亜と若緑色の校舎、どこからか流れてくるバイオリンの音色、中庭で繰り広げられる熱い音楽談義。外界から完全に隔離されたこの学び舎で、神の愛のもと、牧歌的な青春の日々を送る無垢な少年少女たち――そんなものは所詮まやかしで、学校説明会で配られるパンフレットの中にしかないことは生徒たちが一番知っている。代わりにあるのは熾烈な競争と憧れと嫉妬、理不尽な嫌がらせ、足の引っ張り合いといった醜さのフルコースだ。「最も怪しいとされているのは、アマデウスの最大のライバルとされていた、同じ作曲科の佐伯理人(さえきりひと)って生徒だ」
大和はそう言って記事の文章を読み上げた。
「『それまで天才と呼ばれ、絶対的な地位と人気を不動のものにしていた佐伯の運命は、今年の春、アカデミーにあのアマデウスがやってきてから大きく変わってしまった。佐伯の ファンの多くは、この新しく現れた美形の彗星へと簡単に乗り換えてしまった。それだけでなく、それまでであれば佐伯の曲が選ばれていたであろう活躍の場を、幾度となく奪われるようにもなってしまったのだ。また、二人はプライベートにおいても……』」
「いいかげんにしろって」
僕は小さな子供を叱るように記事を取り上げた。
「たしかに二人の不仲は有名だった。でもその記事は、それを利用してアマデウスの死を面白おかしく書きたてているだけだ。ファンならなおさら、そんなでまかせ信じちゃ駄目だろう?」
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