-水間(みなま)に散らした華-

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「それでも、心の片隅で時折、思い出してほしいと、願ったことはないのか?」 「……覚えていなくても、いいんです。  思い出さなくても、いい」  赤谷沙希がその意思の元に自由に生きている限り、離反も抵抗もしない。  その代わり、『リコリス』が赤谷沙希を害することあらば、自分は死を選ぶ。  『リコリス』が関わる闇を世間にばらまきながら、『リコリス』の命運を引き連れて死んでやる。  それが、かつての長谷久那が、今の沙烏が下した決断。  かつて『片づけモノリスト』に名を連ねた赤谷沙希が、今を以って生きている理由。  沙烏が強要されているわけでもないのに本庁の地下に与えられた仕事部屋から外へ出ようとしないのは、離反の意志がないことを示すためだ。  長谷久那は想い人のために、己の未来と倫理、全てを捨てた。  赤谷沙希を『沙烏』の人質として『リコリス』に差し出すことで生かした。 「ただ君が、生きて、笑っていてくれるなら……」
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