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でも、私の目を引いたのは、畏怖の対象である黒服でも、反射的に自分に向けられた銃口でもなかった。
黒服の輪から離れてたたずむ、異色の灰色。
その灰色は、トレンチコートの色だった。
うなじで1つにくくられた茶がかった黒髪が、その灰色とあいまいなコントラストを作り出している。
そのあいまいさを蹴散らしているのは、両腕につけられた腕章とトレンチコートに通されたベルトの深紅。
眼鏡の奥に隠された瞳は、無機質に私のことを見ている。
その人の唇が、何かをためらうように動いた。
何かを紡ぎかけては閉じ、閉じられては動く唇の動きが、私には妙にゆっくりと見えた。
「……ここへ来る未来は、見えていたよ」
迷った末に選ばれた言葉は、キュッと胸の奥を掴まれるような『懐かしい』とも『恋しい』とも思える声音に乗せられて私の耳に届けられた。
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