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「『来るな』って、あの時に言ったのに、また来るなんて。
馬鹿だな、沙希(さき)」
そしてフワリと、無機質だと思っていた瞳が、笑う。
「…… 、 …」
ユラユラと青白い光が踊る、水底(みなぞこ)のような部屋
髪を乱す冷たい風
頭をなでてくれた優しい手
川辺にたたずむスパイラルビル
足早に通り過ぎていく茜色の雲
「 くん」
フラッシュバックする光景を見ながら、私の唇は懐かしい名前を呼んでいた。
でも私は、その名前を音として認識することができない。
それでも、私の声は彼に届いたのだろう。
『動かないはずだ』となぜか知っている彼の表情が、フワリと、本当に嬉しそうに、でも泣きだしそうに、緩む。
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