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「……おしまい、おしまい」
こう言って、叔母は昔話を締め括った。
私は恍惚として、物語を聞き入っていた。昼間に始められた話が、終わると夜になっていた。
「ちいちゃん、今回の話はどうだったかな?」
「すっごく、すっごく気に入ったよ!」
私は力を込めて言った。
それにしても、凄い叔母だと私は思った。どうやって史実を掘り出すのか、ようやく分かった気がした。
歴史書ももちろん大事だが、寺社を巡って話を聞いたり、各地の伝承を集めたり、古くからの芸能を調べたりしたのだろう。
だから、彼女はほとんど家にいなかったのだ。
そして私は中学生になり、高校生になり、大学生になり。歴史を教える高校教師になった。
残念ながら、その頃に叔母は亡くなったのだが、私は決して聞かせてもらった話を忘れなかった。
週末の授業は必ず最後の十五分を取り、語りの時間、と銘打っては生徒達に話して聞かせた。
「語りの先生!」
「語りの先生ー!」
高校の廊下で呼び止められて、私は振り向いた。
女子生徒数人が、こちらに向かって走ってくる。
「そのあだ名、一体誰が考えたの?」
嬉しさと恥ずかしさを混ぜて、私は笑った。
「あ、それと、廊下は走っちゃ駄目だからね」
「はーい、ごめんなさい」
生徒達も笑いながら謝る。
「先生。語りの時間をもっと増やしてくださいよ」
「毎時間三十分にしてくださいよ」
「こらこら、授業はどうするの」
私は軽く小突いた。
「だって、続きが気になるじゃないですか」
「尊道はどうなっちゃうんですか?」
「蓮と雲戒も気になるけど、私は頼実が一番気になる!」
「あんた、カリスマにやられたんでしょ」
楽しそうに話す生徒達を見て、私も楽しい気分になる。
「ねえ、先生。授業も物語形式でしてくださいよ」
「あ、それいい」
「絶対その方が楽しいし、頭に入ると思うんですよね」
「先生、お願い~」
「なるほどね。あんた達、たまにはいい事言うじゃない」
「ひっどーい!」
「冗談、冗談。分かったわ。私もさらに忙しくなるわね」
「やったあ!」
この期待に応えようと、一から人物や人間関係を整理し、あらゆる書物を読み漁った。
尊敬する叔母は、天国で見守ってくれているだろうか。叔母の影響を受けて歴史好きになり、生徒に教えるまでになった私を。
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