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「一体誰が、別れは悲しいなどと言ったのでしょうね」
唐突な言葉に、蓮はただただ相手を見る。
雲戒は微笑みを浮かべたまま、遠くを見た。
「親しくなった者と別れると、確かに寂しいかもしれません。それでも、出逢った事を後悔するでしょうか。別れを悲しむくらいなら、出逢わなければ良かったと思うでしょうか。私は……、少なくとも私は、貴方に出逢えて良かった」
葛藤こそあったが、彼女との出逢いは貴重だった。
今なら、心の底から良かったと言える。
「私も……!」
蓮は拳を握り締めた。
「雲戒さんとの別れを悲しんだりはしません。出逢えて良かったと、心から思います」
関わった回数こそ少なかったが、彼はいつも助けてくれた。
その支えがなかったら、正直ここまで気丈に振る舞えたか分からない。
雲戒は体をまっすぐ向けた。
くい、と笠を下へ引いて、大きな手を差し伸べる。
蓮も細い手を差し伸べた。
そして、しっかりと握る。
冬の寒さでお互い氷のような冷たさだったが、そんな事で妨げられはしなかった。
二人はそっと手を離した。
そして、雲戒はひらりと向きを変えた。
黒一色の背中が、さようならと。
そう言っているようだった。
両足が動いた。大柄な彼が徐々に小さくなっていく。
「……」
蓮は黙って彼を見送った。
遠退いて見えなくなる瞬間、鉄製の杖が鋭い光を放った気がした。
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