第二章 舞方、青姫(あおひめ)

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時は、千年よりもさらに昔にさかのぼる。 大王(おおきみ)と呼ばれる者が、各地の国をまとめ、朝廷を名乗っていた。 彼の所在地である都は、今でいう大都会だ。 忠誠を誓った豪族や、腕の競い合いに来た一流の職人や芸人が出入りする、まさに華やかな場所だった。 入口に位置する市場は、買い物客で溢れ、農民や商人、僧侶達が歩いていた。 農作物や、職人が丹精込めて作った自慢の品が、ずらりと並び、芸人は磨いた技を披露するべく、店の合間を陣取った。 あらゆる職業、身分の人間が、買い物しながら芸も見ようと群がった。 「おい、あそこで何かやっているぞ?」 「本当だ、行ってみよう」 男達がばらばらと、人だかりに集まる。そして、背伸びする。 笛に合わせて舞い踊るのは、小柄で若い女だった。 彩度の高い奇抜な青を身にまとい、赤帯を巻いている。目立つには十分だった。 「青姫だ、青姫だ」 そこかしこから、溜め息が洩れる。 二つに垂らした、艶やかな黒髪。反射する白い肌。きりりとした目鼻立ち。 多くの視線に物怖じせず、彼女は伸びやかに舞っていた。余裕を混ぜた、笑みさえ浮かべている。 後ろ三者の笛吹きは、薄紅の衣に深緑の帯を巻いていた。そして、髪を後ろで一つ括りにしていた。 よほど練習を重ねているのか、一瞬たりとも乱れない。複雑な笛の旋律はもちろん、舞方の目の動きから指の先に至るまで、完璧過ぎるほど完璧だった。 お陰で今や、都の誰もが知る有名人。青衣をまとうだけで、青姫と呼ばれるほどに。 観客の恍惚とした視線の中、青姫の動きは徐々に遅くなり、静かに舞い終わった。 割れる拍手に包まれながら、四人は深々とお辞儀する。 前に置いた笊(ざる)の中へ、次々と貨幣が投げ込まれた。 「……だいぶ集まったね」 「今日も盛り上がったね」 観客を見送って、四人はにこりと笑った。そして、収入を等分する。 「じゃあ、私帰るわね。明日もよろしく」 「うん」 「またね、蓮(れん)」 「明日もよろしくね」 青姫こと蓮は、芸人仲間に手を振った。そして、急ぎ足で市場を抜ける。 ここだけの話、蓮は彼女達と長い時間、接触しないようにしていた。もう一つの顔を感づかれないか、心配だったのである。 蓮は、民家の先の森を見た。そして、さらに向こうの山を見た。 かつて人々が、信仰を求めてきた場所だった。
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