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「……ちゃん、青姫ちゃ~ん」
後ろから、複数の気配がした。ゆっくりと、振り返る。
目に映ったのは、三人の僧侶。でれりと鼻の下を伸ばしている。
(……最悪ね)
蓮は僧侶が嫌いだった。ましてや邪欲にまみれた者など、論外だった。
名ばかりの僧侶達は囲むようにして、でれでれと言い寄った。
「さっきの舞、見たよ~」
「本当に良かったよ~」
「うっとりしちゃったよ~」
三人の顔が、不自然に赤い。僧侶であるにもかかわらず、しかも昼間から、酒を飲んでいたのだろう。
普通なら、怯えるか拒否感を示しそうだが、彼女は全く動じない。笑顔こそないが、平静を保っていた。
「ありがとうございます」
目を合わせないようにして簡単にお辞儀し、立ち去ろうとする。しかし、彼等はぴったりとついてくる。
「青姫ちゃん、ちょっと付き合ってくれよ~」
「ちょ~っとだけ」
やたら間延びした喋り方に、いらいらする。歩みを緩めずに、彼女は答えた。
「今、急いでおります」
きつめに言っても、しぶとい彼等は諦めない。粘れば折れると思っているのだろう。
「いいじゃないか、少しくらい~」
「金ならあるよ~? 君にとって、悪い話じゃないだろう?」
蓮の横顔に、冷たいものが下りた。自尊心ある者なら、今の言葉は絶対に許せない。
(何て野蛮な人達なの)
蓮はもう、まともに返す気も失せた。即刻追い払ってやりたい。
しかし、相手は男三人だ。僧侶だが、酒を飲み金で女を買おうとする彼等を怒らせてしまったら、どんな暴挙に出るか分からない。
(やはり、冗談っぽい言葉でかわして、走って逃げるべきかしら……)
そう思った時である。突然一人が悲鳴を上げた。
何事かと思えば、緇衣(しい)をまとい、笠を被った大柄の男が、ぐっと彼等を見下ろしている。
襟の後ろを掴まれ、持ち上げられて息ができない問題の僧侶は、涙目でじたばたともがいている。
残りの僧侶は、怒りでさらに赤くなった。
「何だ、お前!?」
「手を放しやがれ!」
猫撫で声から一変、野太い声になる。
同じく僧侶で大柄の男は、パッと手を放した。解放されて、小柄な彼はゴホゴホと咳き込む。
「てめえ……」
「俺達を誰だと思ってやがる」
今にも殴りかかる勢いで、睨みつける。
大柄の僧侶は、やっと口を開いた。
「おい、生臭坊主」
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